「過去20年を超える変化」がこの先起こる。ソフトウェア開発をもっと速く

JFrog Japan株式会社

カントリーマネージャー田中克典氏

取材 : 上阪 徹  /  編集 : 丸山香奈枝

成長企業で活躍する方々がどんな価値観を持ち、働く場所や人に何を求め仕事のパフォーマンスをあげるためにどんなことを大切にしているのか。今回ご登場いただくのは、開発者向けプラットフォームを手がけ、アメリカナスダックに上場を果たし、世界約6000社から信頼を集めるJFrog(JFrog Japan株式会社)カントリーマネージャーの田中克典氏だ。

生活に欠かせないアプリ。そのソフトウェアを作るソフトウェアを作る会社とは?

2008年にイスラエルで創業。売上成長率が50%を超えるユニコーン企業として知られ、2020年9月にアメリカのナスダックに上場を果たした。開発者が使い慣れたツールをそのまま利用可能なDevOps技術をサポートしている。

「DevOps とは、Developmentの開発と、Operationの運用を掛け合わせた造語。端的にいえば、ソフトウェアの開発環境を作っている会社です」

個人ならスマートフォンに入っているアプリケーションがわかりやすいが、今やアプリは生活に欠かせないものになっている。これは実は企業も同じ。ソフトウェア開発は、どんな企業でも極めて重要な業務になっている。ところが、その開発環境は製造業に比べると、まだまだ遅れているというのだ。

「製造業の工場の開発設備は、ファクトリー・オートメーションが当たり前のように整備されていきました。ロボットが作業の工程を担い、人の何倍もの仕事をこなす。かつては人がやっていたことを機械が担うことで、1日かかっていた作業が1時間で終わるようになっている。ところが、ソフトウェアの世界では、こういうことがまだまだできていない」

そこで、効率的にソフトウェアを作るためのソフトウェアを作った。これが、JFrogのDevOpsだ。

「金融や保険、サービス、運転など、あらゆるものがソフトウェアに置き換わろうとしている時代。ソフトウェア技術者はこれまで以上に必要となります。ところが日本では、人口が減り、同時に開発者も減っている。すでに新しい技術者が年間で40〜50万人も不足していると言われています」

ソフトウェア需要を拡大すれば、開発の機会も増え、開発リソースも必要になる。なのに、日本には作り手が不足しているのだ。しかも今後は、これまで以上に複雑なものも作っていかないといけない。

「製造業の例でいえば、工場のラインに人をたくさん並べて作るようなことはもうできなくなるわけです。機械に任せて、人はコントロールタワーにいる。そんな状況を複雑ですが生み出す必要があります」

加えてアップデートの方法も変わってきた。DevOpsは、すばやく小さなアップデートを繰り返していくのにも適している。これも、先進企業が次々に導入を決めている理由だという。

創業者は「イスラエル空軍のオフィサー」出身

JFrog は、DevOpsに一貫して取り組んできた。創業者は、イスラエルの大学から空軍に入隊、12年を過ごしたオフィサーだったという。

「イスラエルでは、18歳で全員が軍隊に入ります。男性は3年。女性は2年。そして本当のエリートコースは、士官学校を出て軍のオフィサーになることだそうです。また、オフィサーにならずに民間に行っても、軍の先輩たちからベンチャーキャピタルとしてサポートを受けられるなど、エコシステムができあがっています」

ITやセキュリティの領域で近年、イスラエル企業が大きな注目を浴びているのは、軍との関わりが大きい。

ドローンは20年くらい前から軍で使われていた

「軍は、人とお金を新技術に入れてきました。監視システムや追尾システムなど、ソフトウェアの最先端の技術も軍が早くから取り組みを進めていました。実際、ドローンは20年くらい前から軍で使われていました。カメラで監視し、無人でロケットを撃ち落とす。ドローンは、そんな軍発祥の技術から生まれているのです」

エリート研究者は軍に残って開発を続ける。中には卒業して民間に出ていく人材もいるが、彼らが目指すのは国を富ますことだ。ミリタリーから、エコノミーへの転身である。

「イスラエルという国の名声を高め、税収を上げ、雇用を生み出すこともまた、イスラエルにとっては大きな価値。とてもよくできたシステムだと思います」

花火かと思ったらロケット音だった

JFrogの創業者はそんな存在の一人なのである。田中氏は入社にあたり、イスラエルを訪問したという。ロケット着弾などのニュースがたびたび流れるだけに、荒れた国土をイメージしていたが、まるで違った。

「街はきれいですし、びっくりするくらい平穏でした。海岸線をご夫婦が犬を連れて散歩したりしている。人は親切で、ご飯もおいしい」

ただ、夜になってドーンドーンと遠くから音が聞こえた。

「昨夜、花火でもやっていたのかと聞いてみたら、いやロケットが飛んできていたのだ、というわけです。ただ、スカッドミサイルでほとんど撃ち落とせる、と。これには驚きました」

「フォーチュン100企業のうち75%」が使っているインパクト

JFrogが創業した13年前は、ソフトウェアの開発は今以上に面倒で、時間がかかっていた。創業者は軍で、経験を積んでいた。もっと簡単にソフトウェアを作ることができないか。

自分たちのチームために考えついたアイデアを製品化し、商用化し、販売して今に至る。ニーズは大きかった。すでに世界で約6000社が採用。フォーチュン100に掲載されている企業のうち、75%が使っているという。

「IT企業だけが対象ではありません。金融、リテール、自動車、通信など、ソフトウェアを自社で作っている、あらゆる業界・企業がお客さまになります。もっと簡単に作りたい、速く作りたい。そのためのツールが求められていたのです」

わかりやすくいえば、開発の“作業台”を提供するビジネス。競合がいないわけではないが、JFrogの特徴は、日常的に使っているツールがそのまま使えること。また、クラウドと自社サーバ、両方が使えることだ。

「一部はクラウド、一部は自社サーバ、といったハイブリッドな対応ができる。これは、JFrogだけです」

日本進出は、2018年。グローバルな会社になり、アメリカのナスダックに上場することが目標だったが、ここで日本進出は欠かせない戦略だったのだという。

「アジア、特に日本の市場を押さえることは、グローバル化の定石です。2017年に日本に視察にやってきて、翌年、オフィスを開設しました」

「過去20年の変化以上の変化」がこの先数年で起こる

日本企業の多くが自社でソフトウェア開発をしている。しかし、とりわけ伝統的な大企業になれば、古いシステムを何度も更新し続けて使っているケースが少なくないのではないか、という。一気に新しいシステムに切り替えるのはリスクを伴う。しかし、古いシステムにはトラブルのリスクも伴うし、競争力にも影響する。

「欧米企業は勝つために新しい企業に投資を続けています。いよいよ日本でも、その動きが始まっている印象があります。特にこの1年、一気に動き始めています」

取引先には、トヨタ自動車、楽天をはじめとして、日本を代表する企業が名を連ね始めている。

「もちろん先進的な取り組みを早くから続けてきた企業もありますが、ソフトウェアをめぐる環境は、急激に進化しています。そのことに気づかれ始めたということだと思っています」

過去20年の間に何が起きたか。ガラケーがスマートフォンに変わり、作られるソフトウェアの数も爆発的に増えた。しかし、この20年の変化以上の変化が、この先さらに加速していくはずだ、と田中氏はいう。

「もっとすごいことになると思います。それこそ、自分用のリムジンが開発されるようになるかもしれない。どこにでも、行き先を指定して家を出れば連れていってくれる。スマートフォンは、今の形をしていないかもしれない。メガネがデバイスになる。テレビがデバイスになる。小さなコンピュータ本体を身につけておいて、いろいろなデバイスで情報を取り出したり、指示したりできる。そんな世の中になる可能性がある」

買い物をするにも、キャッシュは不要。それどころか、レジもいらない。すでに日本でも実験が行われているが、まったく絵空事ではない。そしてそうなれば、キャッシュに対する考え方も変わる。銀行の店舗は果たして必要なのか。承認のためのツールは印鑑でいいのか。営業時間が業務時間という認識でいいのか。

そんな世の中になれば、何をする必要があるか。知られていなかったことが、だんだん明らかになっていく中、根本的に会社を変えていかなければいけないことに多くの企業が気づかれているということだと思っています」

新たにJFrogの採用が決まれば、報道機関から取材を受ける。それを見た企業から問い合わせが入る。また採用が決まり、ニュースになるとまた問い合わせがくる。そんな循環が生まれている。

「目先の損得にとらわれない」イスラエルの文化を貫く

田中氏の入社は「日本人の第一号社員となる」

世界には700名ほどのメンバーがいるというが、日本法人は6名。今、7人目の社員を募集中だという。Global Business Hub Tokyo(GBHT)は、入社したときすでに入居が決まっていた。

「イスラエル本社のスタッフが、わざわざ日本に来て決めているのです。ITといえば、六本木や渋谷のイメージもありますが、あえて大手町を選んだ。それは、多くの大手日系企業が本社を構えているという、この場所の価値を理解したからだと思います」

おかげで、コロナの前まではお客様をオフィスにお迎えすることも多かった。

「施設の奥に会議室がたくさんありまして。ビデオ会議にも使えます。ミートアップやセミナーができる広い貸し切りスペースもあります」

オフィスの場所を聞かれて、大手町、と答えると好印象だと感じているという。何より田中氏が気に入っているのは、落ち着いた雰囲気だ。

「ベンチャーが集まる場所だと、キャンパスっぽい雰囲気のところもありますよね。ただ、私は今年60歳。ちょっとそういう空気には馴染めないわけです。その点で、ここはデザインも落ち着いている大人の雰囲気。しかも、ゆったりしていて、ギュッと詰め込まれた感じがしない。サービスも、ホテルのような丁寧さですね。とても快適です」

今後は、JFrogという会社の信頼度を、どんどん高めていきたいと語る。

「イスラエルの会社としての、いい文化があるのです。目先の損得にとらわれず、できるだけのことをする。お客さまと一緒に成長していく。当たり前のことを愚直にやっていく。“こんなまじめにやってくれる会社があるのか”と言われるような会社を目指したいですね」

日本のアニメをはじめイスラエルの人たちは日本へ高い関心を持っている。そんなイスラエル発の先進企業が、日本のソフトウェアの世界に旋風を巻き起こそうとしている。

撮影 : 刑部友康

補足情報

JFrog Japan株式会社

カントリーマネージャー田中克典氏

PROFILE

田中克典氏

シャープ、東芝を経て、創業期のアドビシステムズに入社。
日本のセールス・マーケティング責任者として3年間で売り上げ倍増。
サンノゼ本社にも7年勤務し社長室長として日本市場での地位確立に貢献。
その後オートデスク株式会社、スタートアップの代表職を経て、2018年より現職。
趣味はオートバイとゴルフとワンちゃんとのお散歩。

JFrog Japan株式会社

JFrogのビジョンはLiquid Softwareを通じて継続的なソフトウェアリリース管理(CSRM)を可能にし、開発者が中断することなくエンドユーザーに安全に高品質なアプリケーションをコーディングできるようにすることです。JFrogのプラットフォームは世界をリードするユニバーサル、ハイブリッド、マルチクラウドのDevOpsプラットフォームであり、JFrog製品はAWS、Microsoft Azure、Google Cloud上でオープンソース、セルフマネージド、SaaSサービスとして利用できます。JFrogは何百万人もの開発者やお客様から信頼されており、Fortune 100の企業の殆どがDevOpsのパイプラインを管理するためにJFrogのソリューションを活用しています。

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