INTERVIEW

利用企業の声

マニュアル作成に革新をもたらした「WikiWorks」が“迅速”と“高品質”を追求できたワケ

ナレッジオンデマンド株式会社

代表取締役CEO

宮下知起

取材・文:上阪 徹

成長企業で活躍する方々がどんな価値観を持ち、働く場所や人に何を求めているのか、仕事のパフォーマンスをあげるためにどんなことを大切にしているのか。 今、勢いのある海外成長企業・国内先端ベンチャー企業にスポットをあてたインタビュー。今回ご登場いただくのは、マニュアル制作・公開プラットフォーム「WikiWorks」の開発・販売を軸に、顧客のドキュメンテーションを効率化するさまざまなサービスを提供しているナレッジオンデマンド株式会社代表取締役CEOの宮下知起氏だ。

Web上でファイルを共有しながら同時編集やレビューが可能で、作業分担をしながらマニュアルを制作できる「WikiWorks」はなぜここまで支持を集めたのか、理由についてお伺いした。

属人的なマニュアル制作を課題に抱える企業は多い

家電製品を買えば、お世話になるのが、マニュアル。しかし、マニュアルは消費者向けのBtoC製品だけにあるわけではない。工作機械や計測装置など法人向けのBtoB製品にも、マニュアルは必要になる。そして玄人向けの複雑な機械になるほど、マニュアルもまた複雑で膨大なものになる。

大手メーカーの中には、1年間のマニュアルの制作費だけで500600億円ものスケールになる会社もあるという。こうしたマニュアルをデジタル化するクラウドサービスを提供、成長を遂げているのがGlobal Business Hub Tokyo(以下、GBHT)に入居しているナレッジオンデマンドだ。宮下知起氏はこう語る。

「使用説明書やサービスマニュアルといったマニュアルの制作は、従来はテクニカルライティングなどの特殊技能を持った人たちにアウトソースしていました。極めて属人的な仕事です。マニュアルの属人化には、熟練者が退職してしまうと技術伝承が途切れてしまうリスクもありました。さらにコストの問題です。これを変えていくためには人の手作業をITでうまく置き換えることが必要です。そこにチャレンジしました」

特殊なスキルを持ったマニュアルライターが書く世界ではなく、デジタル技術を活用して誰が作っても同じクオリティ、スピードで作れる世界を目指した。特にスピードに関しての課題解決は急務だった。

「自動レイアウトはもちろん、必要な情報をあらかじめ部品化しておき、それを組み合わせて編纂できるようにしました。執筆してマニュアルが蓄積されていくほど、部品が増えるから一から執筆する分量が減っていく。さらには設計情報からもマニュアルに流用できる部分を検出することもできる。これはAIを使って実現している。マニュアルの執筆量を減らし、制作スピードが格段にアップします」

納品も紙ベースではなく、デジタル。XMLでコンテンツ編集されているため、そのままHTMLにもできるし、PDFにして出力することもできる。

「マニュアルを作る仕組みを変えたい、という悩みがあることは、お客さまから教えていただいたんです。それを事業にしたら想定以上のニーズがありました」

ウェブサイトに直接、問い合わせがやってくることも少なくない。実際、誰もが名を知る大手家電メーカーや大手損害保険会社などの仕事は、ウェブサイトの問い合わせから始まったという。

変化するユーザーニーズ「迅速」というキーワードが新たな価値を生む

従来のマニュアル作りから変化を求められた理由は他にも深刻な課題もあった。

「あるオフィス機器メーカーでは、商品開発のリードタイムは10年間で約2分の1になりました。ところが、使用説明書やサービスマニュアルの作り方は従来通りの同じやり方。当然マニュアル制作のスピードと製品完成のスピードにずれが生じる。製品の出荷スケジュールにマニュアルの完成が影響する、という事態が起きていたのです」

BtoBの機械のマニュアルの目的は多くの場合、製造ラインのダウンタイムをどれだけ小さくできるか、にあるという。

「機械ですから、どうしても故障して止まることがある。その時間を短くし、できるだけ故障しないために定期保守マニュアルや修理マニュアルがあるわけです」

迅速というキーワードは新たな改良と利便性を生む。

「その工夫とはメンテナンスをテキストで理解させるのではなく、動画で理解させることです。誰でも簡易に動画作成を可能にし、タブレットでも見られるようにしました」

紙のマニュアルではこんなことはできないが、デジタル化が可能にした。これによりダウンタイムを短くすることができ、すでに大手自動車メーカーのオーナーズマニュアルをスマートフォンで読めるようにするなどカーナビで見られる技術開発を行っている。

「これは単なるデジタル化ではなく、双方向のコミュニケーション機能が生まれることも意味します。ユーザーにどんなメリットを提供できるか、新しい検証をはじめています」

元エンジニアにして、元編集者

代表の宮下氏は、もともとシステムエンジニアとしてキャリアをスタートさせている。その後、Windows開発者向けの技術書翻訳スタッフとしてアスキーに転職。雑誌の編集者になり、アスキーNTDOS/V ISSUE、ネットワークマガジンなどの編集に携わった。

「実は雑誌をやってみたかったんです。アスキーには7年ほど勤務していました」

退職後はパソコン入門書の執筆や外資IT企業のブローシャのライティングをするなど、フリーランスとして編集領域の仕事を続けた。

「新しい技術を追いかけるのは、面白かったですね。いろんな会社に取材に行けて、先端技術について話を聞くことができました」

アットマーク・アイティ(現アイティメディア)に寄稿編集者として転じてからも、Java Solutionフォーラムを立ち上げるなど先端技術に携わった。その後に立ち上げたのが、ナレッジオンデマンドだった。2005年のことである。当初は編集などを手がける、いわゆる編集プロダクションだったが、2014年に転機が訪れる。

「ソニーに転職していたアスキーの元同僚から、ゲームソフトのライセンシー向けのマニュアルの制作を手伝ってほしいと依頼を受けました。これが膨大なドキュメントで、こんな仕事があるのか、と初めて知りました」

同じ頃に、医療用の液晶ディスプレイを製造しているメーカーから、新しい製品のマニュアルづくりが間に合わない、と声をかけられた。

「本来はエンジニアからソフトウェアの仕様書と製品の現物をもらって書くんですが、理解して書いていたら納期に間に合わない。そこで、エンジニアがもともと持っている情報を社内Wiki上で編纂して、それを開発にチェックしてもらう。これを何度も繰り返して最終的なマニュアルに近づけていくというWikiならではのドキュメンテーションをやってみたんです」

半年かかるマニュアルが、3カ月の短期間ででき、データで作っていたので印刷でもウェブにも対応でき、翻訳も早くできた。

この仕組みを、あるソフトウェアベンダー向けにスクラッチで作ったことがナレッジオンデマンドの2度目の転機となり、マニュアル制作のためのプラットフォーム「WikiWorks」へと展開していくことになる。

仕事に無駄な経験は一つもない

宮下氏はニッチな市場だというが、なぜこの領域を担うことができたのか。

ITの知見と編集の知見、両方を持っていたことが大きかったと思っています。また、アスキーやアイティメディアなどで得た、人のつながりも大きかった」

多くの顧客との出会いはもちろん、プラットフォームである「WikiWorks」を一緒に開発したソフトウェアベンダーとの出会いも幸運だったと語る。

「当初は、まるで社員になったかのように、私も一緒になって細かなところまで入り込んで、作っていったのを今も覚えています」

そして、マニュアルに付随する、さまざまなニーズに気づくことができたのは、宮下氏の心がけによるところが大きい。

「気をつけていたのは、とにかくお客さまの話を聞くということです。ここで生きたのが、編集者時代のインタビューの経験です。おかげで悩みや課題を引き出すことができた。実は大事なことに気づいているのに関係ないと思って話さない、というケースも少なくないんです。うまく課題が引き出せると、それがそのまま仕事になっていきました」

オフィス自体がノマド空間

GBHTに入居したのは、編集者時代の関わりで、何度も訪れたことがあったからだという。

「入居されているみなさんの顔を見ていると、とてもイキイキしているし、のびのびと仕事をされている印象がありました」

小さなオフィスを借りる選択肢もあったが、この環境は手に入らないと直感した。

「東京駅からすぐですし、なんといってもオフィス自体がノマド空間になっている。私も含め社員も執務室ではなく、広い共有空間で仕事をしています。コーヒーを飲み、音楽を聴きながら、広々とした空間で過ごす。だからこそ出てくるアイデアもあると思うんです」

そしてもうひとつ、このオフィスを手がけた三菱地所に好感を持っていたこと。

「以前、三菱地所が協賛するFinTechイベントのアイデアソンに参加したこともあるんですが、ベンチャーのインキュベーションに熱心なんですよね。今はコロナで難しいですが、今後は入居企業などとの横のつながりが生まれていくことにも期待しています」

事業はすでに、製造業大手に加えて、医薬、医療機器、製薬といった新しい領域への展開も始まっている。サービス企業にも取引が広がっており、大型テーマパークのスタッフ向けマニュアルも手がけている。ブロックチェーンのドキュメンテーションへの活用にもチャレンジしている。

「今後は、保険会社や銀行、自治体などの業務マニュアルのニーズもあると考えています。ウェブでテキストを公開するだけでなく、どこまで理解できたかを把握できる。そんな仕組みづくりにも取り組んでいます」

テレワーク環境でも、情報を一元管理して共有し、システム開発と連動しながらマニュアルを制作でいるため、働き方に左右されることもない。

マニュアルというニッチ領域から、大きな広がりが生まれようとしている。

編集:丸山香奈枝

撮影:刑部友康


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